破滅を願う心

あんなに嫌いだった人、これ以上は自分が壊れてしまうと思い自ら離れた人がいる。

俺たちは紛れもなく部下と上司の関係だった。

 

俺はその人のことを憎んだ。

日常的なパワハラは別にどうでもよかったが、あの日あの人は俺の触れてほしくないところ、詰まるは逆鱗に触れた。第三者から見ると些細なことかもしれないが、俺は許せなかった。

 

初冬の晴れて空気の澄んだ、気温がましなぐらいに上がりそうな時間、日差しが眩しかった。血の気が引き、体温が低くなり、周りが白くぼやけていきそうな、貧血に似たあの感覚。今思うとあれは殺意だった。とどまることができて本当に良かったと思う。

 

 

でもいつか、次に目にしたときは彼の触れてほしくない部分に爪を立ててやろうと、それが無理ならば何か別のことをと考えていた。それは俺の一つの野望であり、生きることにもなっていた。周りにはもう気にしていないと嘯いていたが、眠れない夜に妄想の中でいつかの日を思い彼を痛めつけていた。

 

 

しかし、ここにきて彼の消息が分からなくなった。4月の写真には確かにいた。が、とある名簿からは名前が消えた。昔の同僚に聞くことも手だがそんな真似はしたくないと自尊心が許さない。

 

 

なぜ名前が消えたのか、妄想に妄想を膨らましてみるが行きつく先は悲惨なものだった。終わってしまったのだろうか。どんなであろうと俺に残されるものは虚無そのものだ。

 

 

虚無だけある。多分これこそ俺の傲慢そのものだと思う。

俺は彼の破滅を願った。だけど本当に破滅してほしくなかったと今になって気が付いた。

 

 

生きてほしいと思うことは必ずしも美徳ではなかった。苦しみ続けて欲しかった。

今の俺みたいなことを考える奴がいたからきっと地獄が生まれたんだろうな。

せめても死んだ後も苦しみ続けますようにという人々の願いが地獄を生み出し、自分を救済したかったんだろうな。

 

 

でも誰かの中では彼は天国へ行ったんだと考えてもみる。

そんなものだ。

 

 

彼が生きていようと死んでいようと、ありがとう。この気持ちに気が付くことができた。あなたの全てが嫌いと言うわけではなかったことにも気が付いた。だからいつかまた巡り逢いたいと思うし、文章にもした。あなたと生きた記憶をここに残しておきたいから。